ワキガと多汗症

手汗や足汗で濡れてしまうのは病気?

激しい巡動をしたわけでも、ひどく暑いわけでもないのに、いつも手のひらや足の裏が濡れているという人がいます。
中には、滴になってポタポタ落ちるほど大量に汗をかき、答案用紙や山知がびしょびしょになる、靴を脱いで木の床を歩くと汗で足の形が残る、などという悩みを抱えた人もいます。

 

程度の差こそあれ、人口の0.5%の人が、単なる「汗かき」というレベルを越えた汗の異常に苦しんでいます。
こうした汗の異常は「多汗症」というれっきとした病気で、しっかりした治療をすれば9割以上は治るものです。

 

多汗症の人は、全身ではなく、手のひら、足の裏、肢(わき)の下、微など特定の部分の汗が目立ち、緊張するとよけいに汗の量が増すのが特徴です。

 

大量に汗をかくといっても、生命にはかかわらないことから、これまでは医師の聞でも病気だというな意識が薄く、「気のせいだから」と片づけられることが多々ありました。
多汗症の患者さんたちには非常に気の毒なことで、日々の生活や仕事上の不便ばかりか、治療法が見つからない不安も加わり、何事につけても消極的になってしまう、という人もおられたのではないでしょうか。

 

かつては、何科を受診するのかわからず、ともかく皮膚の疾患だからと最初に皮膚科を受診する人がほとんどだったようですが、現実には皮膚科では制汗ローションを処方するなどの補助的な療法が主体となっています。
場合によっては「気にしすぎ」などと言われ心療内科を紹介されるケースもあるようで、そう言われた患者さんのほうでは「私は精神的に何か問題があるのでは」と心配して、かえって不安が増大したという経験談も聞いたことがあります。

 

しかし多汗症は、精神的障害とは何の関係もなく起こるものです。
心理療法は気持を楽にはするかもしれませんが、汗は止まってくれません。

 

では何が現認なのかというと、それがはっきりとわかっていないのです。
ただ発汗は、人間にとっては体温調節のために必要な生理現象で、この機能をつかさどる交感神経の反応が普通より強いと、多汗症という症状として現れるのです。

多汗症治療で得られるもの

一方、生まれつき汗腺が欠如している「無汗症」という病気がありますが、体温調節がしずらいため、運動をした後など、体温が上昇して熱射病になりやすく、多汗症よりもむしろ危険と言えるかもしれません。

 

多汗症は、かつてはあまり効果的な治療法がありませんでしたが、最近では主にペインクリニック科、麻酔科、血管外科などで、交感神経をアルコールでブロック(遮断)したり、あるいは内視鏡による手術で切除するという方法が効果をあげています。

 

気をつけたい点は、手のひらと足の裏では、発汗の指令を出している交感神経の位置が違うので、治療は別々に行います。
手のひらの汗の治療は、20年以上前までは胸椎の第2、3肋骨(ろっこつ)の上にある交感神経節をブロックする「胸部交感神経節ブロック」という方法が主流でしたが、現在はより安全性と有効性の高い「胸腔鏡下(きょうくうきょうか)交感神経切除術」が広く行われています。

 

足の裏については、手術よりむしろ第2、3腰椎の前側面にある交感神経をブロックする「腰部交感神経節ブロック」が最も効果のある方法です。プロックや切除というと、危険が伴うような印象をもたれるかもしれません。

 

しかしきわめて安全です。
交感神経は1ないし2か所切るだけなので、機能的には問題はあまりなく、傷もほとんど目立ちません。

 

ただし、まれなケースですが、胸部疾患や胸部の外傷が以前にあると、これらの治療を行うのが困難な場合もあり、すべての人に向く治療法ではありません。

 

そして何よりよく考えていただきたいのは、いくら安全な治療法であっても副作用や合併症はゼロではないということです。
手のひらや足の裂の汗を止めることは、「人並みに汗が出る」ようにするのではなく、完全に汗を止めてしまうので、皮膚は乾燥することが多くなります。
特に手のひらがかさかさになるため、本のページがめくりにくい、お札が数えにくいなどの症状を訴える人もいます。

 

また特定の部分の汗を止めることにより、体の他の部分の汗の量が多くなる「代償性発汗(だいしょうせいはつかんとは、程度の差こそあれ、約96%の人に生じます(NTT東日本関東病院ペインクリニック科調べ)。

 

しかし、。ほとんどの人は代償性発汗があっても、手のひらや足の裏の汗から解放されたことで、まるで第2の人生が始まったように、非常に喜んでいるのです。

 

確かに多汗症は命にはかかわらない病気で、その名のもとに軽視され、治療法の発達が遅れたとも言えるでしょう。
しかし患者さん本人にとってみれば大変な苦しみで、QOL(クオリティ・オプ・ライフ。生活、人生の質)をおとしめるもののはずです。

 

ですから患者さん本人にとって、多汗症が日常生活、仕事の上でどれだけ障害になっているのか、副作用や合併症を差し引いても治療を受けるほうがよいのか、今一度考えたうえで治療に臨まれることが大切だと思われます。

ワキガと汗臭さ・体臭との違いとは?

わきの下にニオイを感じたからといって、それをすべてワキガ臭と決めつけてしまうのは明らかに間違っています。

 

人間は動物の一種ですから、絶えずさまざまなニオイを放っています。ワキガは、ニオイが強烈なので目立つだけで、ほかの体臭もたくさんあるのです。

 

例えば、誰でも運動をして大汗をかいたあと、お風呂に入らないでいると、全身からイヤなニオイが発生してきます。いわゆる「汗クサい」ニオイです。わきの下は汗がこもりやすいので、とくにニオイを強く感じます。しかし、当然ながらこれはワキガではありません。

 

また、わきの下を清潔にしていないと、アカがたまってそのニオイがでてくる場合もありますが、もちろんこれもワキガとは無関係です。
しかし、それらのニオイをすべてひっくるめてワキガと思い込み、悩んでいる方が驚くほど多いのです。

 

病院にも、「わきにニオイがあるので手術で治してください」と言って来院される方が多いことは前にのべました。

 

しかし、ワキガ臭とそのほかのニオイは、発生のしくみがまったく異なります。ワキガはあくまで遺伝的因子に基づく「体質」であり、そのニオイはワキガ特有のものです。
本当のワキガなら適切な治療をすれば治りますが、ワキガでない方が、ワキガの治療を受けても治らないことをよく知っておいてください。

多汗症=ワキガではありません

ワキガの方は、腋窩多汗症をともないやすいことはすでにおはなししました。
そのため、両者は混同されがちで、ワキガの方はすべて腋窩多汗症であり、逆に腋窩多汗症の方はすべてワキガである、という誤った考えが広く浸透しています。

 

確かに、ワキガの方の多くが腋窩多汗症をともなっているのは事実です。

 

しかし、ワキガの方でも腋窩多汗症でない方はいらっしゃいますし、腋窩多汗症でわきの下から汗が吹き出ているような方でも、ワキガのニオイはまったくしない場合もあります。
ワキガと腋窩多汗症は、それぞれ独立した症状なのです。

 

ですから、大汗をかくからといって、「自分はワキガではないか」と、勝手に判断して思い悩んだり、「あの人はワキガのニオイがするのではないか」と、他者を中傷したりするのは絶対にやめましょう。

衣類の脇の部分が黄ばむのってワキガ?

「衣類に黄色い汗ジミができるのはワキガの証拠」

 

という情報も広く流布されています。これはまったくの誤りではないものの、誤解を生みやすい表現です。

 

ワキガの方の汗には、黄色い色素が分泌されていることがあります。ですから、ワキガの方が汗をかくと、黄色い汗ジミができやすいのは確かです。しかし、すべてのワキガの方に当てはまるわけではありません。ワキガの方でも、衣類のわきの下に黄ばみがでない方が結構いらっしゃるのです。

 

また、ワキガでなくても、汗に色素が混じっている方がいます。その場合、汗をかくと当然ながら衣類に黄ばみが生じます。

 

また、制汗剤を多用した場合も、衣類に黄ばみや黒ずみが付着しやすくなります。

 

つまり、汗による衣類の黄ばみは、ワキガの絶対条件ではなく、あくまで一つの目安にすぎません。黄色い汗ジミが「ワキガの証拠」と断言するのは、言い過ぎなのです。

 

いずれにしても、
「自分はワキガかな?」
と思ったら、医療機関で必ず診断してもらうようにしましょう。

 

世間の情報に振り回されて、ひとりで思い悩み、ワキガ妄想におちいってしまうのだけは避けたいものです。