多汗症

多汗症と一口に言っても人により汗の出方はいろいろです

「生理的に必要な量以上に大量に汗をかく」というのが多汗症の定義となっていますが、ひと言で大量の汗といっても、その状態はさまざまで、「手足が汗で湿っている」という人から、「間断なく、摘がしたたり落ちる」という人まで、汗の量や出方には個人差があります。

 

「水で手を洗ってふかない状態がいつも続いている」と自分の状態を表現した方もいました。

 

手足にいつも汗をかいているということは、体温を下げる働きが休みなく働いているということで、当然その部分は冷たく、あかぎれなどを併発している人もいます。

 

いつも手足が湿っていることから湿疹や、汗抱(かんぽう=日焼けした後に汗をかいたときのように皮膚にできる水抱)ができる場合や、もっと重度の人では「私は年に2回ぐらい脱皮するんです」というほどに皮がむけてしまう人もいます。

 

大量の水分が放出されているので、のどが渇くという人が多く、排尿の回数も普通と比べて少ないようです。

 

汗の出方は、1日中出続けているのではなく、1日のうちで出るときと乾いているときがあることもわかってきました。

多汗症は実は原因がはっきりしていないんです。

どうして多汗症が発症するのか、残念ながら原因はよくわかっていません。

 

ただ、手掌足蹴多汗症の人は、一般の人に比べて交感神経の反応が強いと言えるでしょう。

 

前記のように、発汗は体に必要な生理現象ですが、手のひらや足の裏の汗は一見不必要なものに思えるかもしれません。
しかし太山の昔、槍を持って裸足でマンモスを追いかけていた時代には、それも必要なものだったのです。

 

手のひらが乾いていると槍がしっかり持てず、足の裏が乾いていると岩の上を走るときに滑って不都合です。

 

大昔の人たちは、獲物を見つけると興奮して交感神経が活発になり、体を機敏に動かすのに血液が必要になるため、それを体中に送り込むべく心臓が早くなり、瞳孔は聞き、筋肉は固くなり、同時に手のひらも足の裏も濡れてくるわけで、獲物をとらえるには、手のひらや足の裏の発汗は必要なことだったのです。

 

しかし、現代の暮らしの中では、獲物を捕まえる場面はありませんから、しだいにこの機能は必要とされなくなりました。
多汗症は精神的な病気ではありません。

 

受信される患者さんに精神的、心理的な偏りままったなく、性格も千差万別です。
精神に問題があるのではなく、自律神経のうちの交感神経の反応が強すぎるのです。

 

「緊張して汗をかくのは、気にしすぎるから」と思う人もいるかもしれませんが、それは違います。

 

エピソードを1つご紹介しましょう。
ある主婦は6歳の多汗症の女の子のお母さんですが、「この子は生まれたときから足が濡れていてソックスをはかせるのに非常に時間がかかりました」と話していました。

 

このように自我が確立する前から汗が出ているのですから、汗は意識とは関係なく、「気にするな」と言ってもムリな話、抗不安薬などは気持を楽にするかもしれませんが、汗は止まりません。

 

また家族や兄弟で受診する人が多いことから遺伝も十分考えられます。

汗の出る仕組みを紹介

多汗症の話をする前に、まず汗の出る仕組みとはどういうものかをお話ししましょう。

 

汗というのは本来、体温調節の働きをするもので、人間には必要不可欠な生理現象です。
運動などにより体温が高くなったときには汗を出して気化熱を奪い、体温を下げ一定の温度にとどめようと働くのです。

 

このような指令を出しているのは脳で、脳からの命令は脊髄(せきずい)を巡り交感神経を通して、汗を出す汗腺に届き、実際に汗が出るというわけです。

 

このように体温調節の目的で出る汗のことを医学的には「温熱性発汗」と呼びますが、このほかに緊張したときなどに出る「精神性発汗」というものがあります。

 

温熱性発汗と精神性発汗は、汗の出る場所が異なります。
体を動かしたときのことを思い出してみてください。
このときは全身に汗をかきますが、不思議と手のひらや足の裏の汗は気になりません。

 

一方、「手に汗握る」という言葉があるように、緊張したときにはどういうわけか、手のひらや足の裏、額、肢の下に汗をかくことが多いのです。

 

自動車の運転中に緊張したとき、手のひらには汗がでますが、手背(手の甲)に汗はでません。
先ほど発汗をつかさどるのは交感神経と言いましたが、交感神経と対になって自律神経を構成しているのが副交感神経です。
この2つはバランスをとりながら体の中で働いています。

 

敏捷(ぴんしよう)な動きを必要とするときには交感神経が、リラックスしているときには副交感神経が働いているのです。
副交感神経の最も活発な活躍の場である睡眠時には、寝汗は体中にかくけれど、手のひらはサラサラなままです。

 

つまり、手の甲と全身は温熱性発汗、手のひら、足の裏は、精神性発汗ということがおわかりいただけたかと思います。

 

これから話を進めていく多汗症とは、精神性発汗で起こる汗の異常ということになります。
手のひらと足の裏に限定して大量に汗をかく病気を手掌足せき多汗症(しゅしようそくせきたかんしょう)と言い、これといった原因がなく起こることから、「特発性手掌足せき多汗症」というのが医学的な正式名称です。

 

脇の下や顔面の発汗を伴う場合があります。

 

ついでにお話しすると多汗症と間違えやすい病気としてわきが肢臭症(えきしゅうしよう)がありますが、これは汗の出る汗腺の種類が違ってきます。

 

多汗症の水のような汗は、体温調節機能を担当する「エクリン腺」から出ますが、わきがの粘度のある汗は、それよりも深いところにある「アポクリン腺」というところから出ます。

 

エクリン腺が体のほぼ全域にあるのに対し、アポクリン腺は肢の下や外耳道、外除部など体毛のある限られた部分にしか分布しておらず、独特の臭気を伴います。

 

人間は他の動物に比べてアポクリン腺が退化していますが、中には発達している人もおり、それがわきがの原因となっているのです。

多汗症は年齢や性別に関係がない

多汗症の患者さんが訪れる医療施設ですが、患者さんの平均年献は24歳で、比較的若い人が目立ちます。

 

受診を決意する大きなきっかけは、異性と手をつなぐ機会がやってきたとき、つまり体育祭などのフォークダンスがきっかけという人がかなり多いようです。

 

小さいころは、元気に暴れ回ってみんな汗まみれになっているから、「きっとみんなも自分と同じぐらいに手足に汗をかいているだろう」とまったく疑いもしなかったのが、人の手には汗がない、人の手は濡れていないんだ、という事実に気づくと、急に自分の手が特異なもののように思えてきた、という人が多いのです。

 

次なる試練が、受験などの試験です。答案用紙が濡れてしまうものだから、常にハンカチやタオルなどを振っていなければならないのに、それが「カンニング」というあらぬ疑いの対象となり、非常に苦労した、中には手に包帯を巻いて試験に臨んだという人もいます。

 

汗が山ると思うとますます緊張してよけいに汗がふきだしてしまうという人が多く、どうやら汗の悪循環というものも存在するようです。

 

若い患者さんが多いということは年をとると、多汗症は自然に治っていくと思われますか?
答えはノーです。
中年以降でも受診される人はおり、男女差もありません。

 

確かに年をとると汗腺の機能は衰えますが、それ以上に緊張に遭遇する場面が少なくなることから、多汗症が障害になることが少なくなるのだと思われます。

 

あらゆる年代に多汗症は存在しますが、医療機関を実際に訪れるのは、若い人が多いのです。

手を使う職業の悩みはつきません

多汗症の受診する患者さんには、ギタリストやピアニストなどの音楽家も少なくありません。
つまり、手を使って仕事をする人たちです。

 

ギタリスト、バイオリニストなどの弦楽器の演奏家は、手の汗で楽器が錆びるそうです。
またピアニストは指先が鍵盤を滑ってしまうそうで、治療を受けたら格段に音がよくなったと喜ぶ人が多いのです。

 

ある脳外科医が多汗症の息子さんを連れて治療をしたこともあります。
お父さんは息子さんに後を継がせたいと思っているのですが、始終汗をかいていたのでは不衛生で、外科医になることは無理だと判断したからです。

 

胸腔鏡下交感神経切除術を施したところうまくいき、その後、息子さんは外科医になるべく猛勉強をしていると聞きました。

 

またトリマーの学校を卒業し就職活動をしていた女性が、手のひらの汗のことを話すとどのペットショップでも採用されず、諦めていたところ、胸腔鏡下交感神経切除術のことを知り、手術を受けてついにトリマーとして働き始めたと言います。

 

さて、音楽家や医師が多く来院することから、これらの職業の人に特に多汗症の人が多いかというとそうではありません。

 

どの職業にも多汗症の人は存在しますが、治療を希望する人たちは、職務を遂行する上で多汗症が著しく障害になっているということです。

 

どちらかというと、多汗症の患者では足の裏よりも手のひらの汗を止めたいという人が多く訪れます。

 

手のひらは汗をかいたらすぐに洗ってふくことができますが、足の裏は一度外出するとなかなか清潔に保つことができず、不快感があるでしょう。

 

にもかかわらず手のひらの汗を気にして受診する人のほうが多いということは、手のひらのほうが、足の裏よりも人目に触れやすいということがあるのではないでしょうか。
これは非常に大きな障害です。

 

若い患者さんたちは、学業を終えて社会に出るときが受診の1つのきっかけとなるようです。
ある初級代の女性の患者さんは、高校卒業を機に治療を考えるようになりました。

 

高校時代は、ジーンズにスニーカーというラフなスタイルでどこへでも行けたのが、社会人になったとたん、スーツで脚はストッキングという通勤スタイルが求められるようになったからです。

 

汗をかいた脚にストッキングがはりついて気持が悪く、人の家に靴を脱いで上がるときなど身の縮む思いだったと言います。
革靴もすぐにダメになってしまったそうです。腰部交感神経節プロックを行い、足の裏の汗が止まり、大変喜んでいます。

 

先ほど多汗症が障害になるのはフォークダンスがきっかけとなる人が多いとお話ししましたが、これは人や社会とかかわりを持つことで、汗の障害を意識する、またはより障害が増すということでしょう。多汗症には対人的、社会的な要素が大きくかかわっているのです。

 

人に見られるとよけいに緊張して汗の量が増える、汗をかくと思うとますます汗が出てしまうというのも、そうしたことがストレスとしてのしかかってくることが要因です。

 

しかし多汗症は決して精神的な病気ではありませんので、心療内科などを受診したとしても汗は止まりません。
実際には多汗症治療のための検査を行っていくのです。