ワキガと手汗・足汗・脇汗の悩み

他人からみると、ただの「汗」。でも本人にとっては・・・

ワキガ臭のない、純粋な腋窩多汗症の場合は、本人の悩みの深さにくらべて、周囲の人はそれほどたいした問題と感じていないのが通例です。

 

例えば、ある主婦の方からこんなお手紙をいただいたことがあります。ご本人はわきの下の汗がひどく気になって、すぐにでも汗を抑える手術を受けたいのだが、ご主人やご両親は猛反対。

 

「汗が多いくらいで手術なんて大袈裟すぎる」
「結婚して子どももいるのだから、いまさら何のために手術が必要なのか」
と、彼女の悩みをまったく理解してくれないというのです。

 

おそらくこの女性は、日ごろからこまめにわきの下の汗をケアしているのでしょう。そのため、ごく身近で生活している家族でさえ、彼女の汗はほとんど気にならず、手術をする必要性を感じないのだと思われます。

 

多汗の悩みが、ワキガの悩みと大きく異なるのはまさにこの点です。

 

ワキガのニオイは有無を言わさず周囲の人を巻き込みますが、多汗症で汗をたくさんかいても周りはさして気にしません。
本人がしっかりケアしていれば、多汗症であることじたい気づかれないこともよくあります。

 

また、汗がたくさん出る以外、痛みがあるわけでもなく、内臓に障害がみられるわけでもないので、他人からみれば「たかが汗」にすぎないわけです。

 

しかし、本人にとっては「されど汗」。長年にわたって、見えないところで大変な努力と心労を重ねているのです。

服が汗で滲んできてしまう悩み

腋窩多汗症の方の最大の悩みは、汗が衣類の表面までにじみでてくることです。

 

女性の方はとくに、ブラウスのわきの下が汗でぬれていることを他人に悟られまいとして、さまざまなくふうをしています。

 

わきの下の汗に悩む方が手放せないのが、汗わきパッドです。
汗わきパッドとは、衣類のわきの下の部分に装着すると、わきの下から流れ出る汗を吸着してくれる重宝なパッドです。

 

汗の量が多い方や、汗の量が少なくても神経質になっているような方は、このパッドをじっにこまめに交換しています。
会社勤めをしている女性の方では、1〜2時間おきにトイレで取り換えている例もしばしばです。

 

また、よく使われるのが制汗剤ですが、実際には制汗剤で汗がとまることはありませんし、逆に制汗剤の使いすぎで、わきの下に色素沈着が生じたり、衣類にシミがついたりしているケ!スもよくあります。

 

はっきり言って、日常生活に支障をきたすほど重症の腋窩多汗症の方はあまり多くありません。
大半は、要するに気持ちの問題で、「わきの下がぬれているのはみっともない」「衣類に汗ジミができるのを想像しただけでぞっとする」といった恐怖心にも似た思いから、必死で汗を隠そうとするのです。

 

ところが、緊張性の腋窩多汗症の方では、気にすれば気にするほど汗がでできます。したがって、一度気にしはじめると泥沼にはまってしまうのです。

 

しかも、就職の面接試験やお見合いの席など、人生における重要な場面でことごとく汗に悩まされるのですから、汗に対して神経が過敏になってしまうのもムリありません。

 

加えて、汗に黄色い分泌物が混じっていたりすると、悩みはいっそう深刻なものとなります。
衣類に黄色い汗ジミがでるのを怖がって、暗い色調の服ばかり着ている方も結構多いのです。

汗とワキガは連動している?

腋窩多汗症の方で、
「汗をかくとワキガ臭がでてくるのではないか」
と不安になっている方がいます。

 

ワキガの方が、腋窩多汗症をともないやすいのは事実ですが、ワキガと腋窩多汗症はまったく異なる症状で、駅間多汗症が単独であらわれることも決して珍しくありません。

 

ワキガのニオイをともなう腋窩多汗症か、単独であらわれている腋窩多汗症かは、耳アカを調べるとわかります。

 

ある病院での調査では、ワキガと多汗症の患者さん466人のうち、耳アカがしめってやわらかかった431人の9割近くはワキガのニオイが確認されたのに対して、耳アカがカサカサにかわいていたお人の患者さんはすべてワキガ臭のない純粋な腋窩多汗症でした。

 

この結果から、わきの下に多量の汗をかく方でも、耳アカがカサカサに乾いている方は、ワキガのニオイはないと考えていいでしょう。

 

なぜなら、ワキガ体質ではないからです。

 

一方、わきの下の汗が多くて、なおかつ耳アカがしめってやわらかい方は、腋窩多汗症とワキガを併発している可能性があります。

 

耳アカのしめりは、ワキガの元凶であるアポクリン汗腺が発達している可能性があるのです。
ただし、耳アカがしめっているワキガ体質の方でも、ワキガのニオイがしない場合があります。

 

前記の調査でも、耳アカがしめっていた患者さんのうち、1割強の方にはワキガ臭が確認できませんでした。

欧米ではワキガは当たり前

欧米人のおよそ8割は、ワキガ体質といわれています。

 

「欧米人は体臭がキツい」

 

という印象が強いのはこのためです。

 

このようにワキガ体質が多数派を占める欧米では、ワキガがむしろ当たり前の状況なので、そのニオイに悩んでいるというはなしはあまり耳にしません。また、ワキガを敬遠する声もそれほど聞かれません。

 

これに対して日本では、ワキガ体質の方は人口の1割程度とされています。総人口を1億2000万人とすると、ワキガ体質の方の数は1200万人。このうち、ワキガで悩んでいる方は200万〜1250万人と推定されます。

 

この数字をみて、「意外に多いな」と感じる方もいるでしょう。

 

しかし、人口の1割というのはやはり少数派。
1割しかいないことが、さまざまな悲劇を生むのです。

ワキガで日常生活が冷静に送れない

島国の日本では「人と違う」ことはすべてマイナスにとらえる傾向があり、ときにはいじめの対象になります。

 

多くのクリニックにも、ワキガに悩む方たちから多くの手紙やメールが届きます。

 

そこにはワキガの方にしかわからない、つらい思いが切々とつづられています。ワキガのニオイが原因で、
「学校でダサイ、クサイといじめにあった」
「好きな人や友人が離れていった」
「希望する職業につけない」
「結婚が破談になった」
「クラブ活動の合宿で仲間からイヤがられた」
「家に閉じこもりがちで、将来に希望をもてない」
「子供にワキガが遺伝し、申し訳なく思っている」
など、悲鳴にも似たことばがあふれでいるのです。

 

こうした相談を受けるごとに、私は悔しさでいっぱいになります。

 

なぜなら、ワキガは治るのです。適切な治療をすれば、確実にニオイをとることができます。それを知らずにつらいめにあったり、ひとりで悶々と悩んでいる方が、世間にはまだたくさんいるのかと思うと、たまらない気持ちになるのです。

ワキガは食生活が影響している!?

ところで、なぜ欧米では8割の方がワキガ体質なのに、日本では1割にすぎないのでしょう。この差は、偶然の範疇を超えています。

 

ちなみに、東洋人は総じてワキガ体質が少ないことが知られています。例えば、お隣りの韓国では日本より少なくて人口の0・5割、中国ではさらに少なくて人口の0・3割といわれています。

 

こうした差は、おそらく歴史的な食生活の違いに由来するのではないか、と私は考えています。

 

欧米人はむかしから肉料理が中心で、脂肪やたんぱく質の多い高カロリーの食生活を送ってきました。これに対して日本人は、近年にいたるまで肉食を禁じられていたこともあって、動物性食品といえば魚介類を口にする程度。
あとは穀類・豆類・山菜・キノコ類が中心の質素な食生活を送ってきました。

 

こうした食事の差が、わきの下のアポクリン汗腺と皮脂腺の発達に大きな影響をおよぼしたと推測されるのです。

 

すなわち、高カロリー食をとり続けてきた欧米人は、脂質の代謝排出が皮脂腺だけでは追いつかず、アポクリン汗腺がそれを助けるために発達し、結果的にワキガが発生しやすいからだのしくみが作られたと考えられます。

 

あるいは逆に、東洋人のアポクリン汗腺が、長年の粗食によって退化したのかもしれません。とすると、いま日本でワキガ体質を受け継いでいる方たちの先祖は、とても豊かな食生活を送っていた可能性があります。

 

日本でも古来より、少数派ではあったもののワキガの方がいたことは、古い文献の記述にも残されています。
例えば、8世紀後半に編まれた「万葉集」のなかには、次のようなうたが載っています。

 

平の朝臣が、ワキガ臭の強い穂積の朝臣を皮肉ってうたったものです。

 

「小児ども草はな刈りそ八穂蓼を穂積の朝臣が肢草を刈れ」
子どもたちよ、野の草ばかり刈り取っていないで穂積の朝臣のあの臭い肢草(わき毛)を刈っておくれ

 

8世紀後半といえば、すでに肉食が禁じられていた時代。しかし、身分の高い人たちのあいだでは、脂たっぷりのオイシイ動物性食品をこっそり堪能していた人が少なくなかったのかもしれません。

日本人のワキガは増えている

このように日本では、むかしからワキガのニオイを疎んじる傾向がありました。しかし、最近の日本人は、ニオイに対して病的なほど過敏になっています。

 

「汗をかいたらクサい、クサかったらダメ、すぐにニオイを消さないといけない」という三段論法で、消臭グッズがのきなみ大ヒット商品になっています。その背景にはマスコミの力も大きいでしょう。

 

1980年代に「朝シャン」ということばが流行しはじめたのが出発点だったような気がします。

 

かつて、男の汗クサさは、男らしきの象徴でした。しかし、いまや男であっても汗クサさは決して好ましいものではなく、男たちも積極的に消臭グッズを愛用しているのが現状です。

 

皮肉なことに、そうしたニオイを消そうとする行動とは裏腹に、日本のワキガ人口は少しずつ増えていると推測されます。

 

なぜなら、ここ数十年のあいだに、日本の食生活が一変したからです。第二次世界大戦後、食生活が豊かになるにつれて食事の欧米化が進み、食卓に脂っこい肉料理が並ぶ機会が増えました。

 

こうした食生活の変化が、日本の肥満人口を増やし、ひいては肥満に基づく高血圧、高コレステロール血症、糖尿病といった生活習慣病の増加につながっていることはよく知られています。

 

同時に、食生活の欧米化は日本のワキガ人口も増やしていると考えられるのです。

 

ワキガ人口が増えて多数派になれば、日本でもそのうち「ワキガが当たり前」の時代がくる可能性もありますが、やはり日本固有の文化として香りに敏感な国民性ですので、ムリかもしれせん。

ワキガと体臭、セックスアピールについて

そもそも動物にとって「ニオイ」というのは、他者とのコミュニケーションをとるうえで非常に重要な役目を果たします。

 

縄張りを誇示するマーキングや、繁殖期に発するフェロモンはその最たるものですが、人間のワキガも、もともとは何らかの意味をもつニオイだった可能性があります。

 

実際に、ニオイに敏感な日本人のなかにも、ほのかなワキガのニオイをむしろ歓迎するNがいます。

 

この場合、ワキガのニオイが、異性を惹きつけるセックスアピールになっているわけですが、ワキガ人口の多い欧米では、とくにその力が発揮されているように思います。

 

いずれにしても、人間は動物の一種ですから、ニオイがあって当たり前なのです。

 

少しの汗クサさにも過敏に反応して病院へ駆け込む現状は、やや問題があると考えざるを得ません。
もしかすると、現在の日本の「ニオイなんてないほうがいい」といった風潮が、少子化やセックスレス夫婦の増加に密接に関わっているようにも思えてきます。

 

もちろん、仕事や日常生活に支障がでるほどひどいワキガ臭に悩んでいるケースについては治療をおすすめします。
くりかえし言いますが、本物のワキガであれば、適切な治療で治ります。ワキガは治るのです。